海外医療通信 2017年7月号

2017年7月26日(水曜日)

東京医科大学病院 渡航者医療センター

・海外感染症流行情報2017年7月

1)香港で季節性インフルエンザの流行が発生

香港で7月になり季節性インフルエンザの流行が発生しています。香港衛生局によれば5月から7月中旬までに300人近い重症例が発生し、205人が死亡しました(香港衛生局 2017-7-20)。
http://www.chp.gov.hk/files/pdf/fluexpress_web_week28_20_7_2017_eng.pdf
インフルエンザの種類は従来から流行しているA(N3N2)型で、新型インフルエンザの流行ではありません。香港に滞在する際には手洗いを励行するとともに、発熱などの症状がみられたら場合は、マスクをして医療機関を受診するようにしましょう。なお、ワクチンの効果は約半年ですので、昨年秋に接種した方はすでに効果がなくなっていると考えられます。

2)中国での鳥インフルエンザの流行は鎮静化

中国では昨年秋から鳥インフルエンザH7N9型の流行が発生しています。6月も35人の患者が発生していましたが、7月には鎮静化している模様です(外務省・海外安全ホームページ 2017-7-18) 。WHOは今回の第5波流行を解析しており、流行のピークは2月にみられたとしています(WHO 2017-7-19)。内陸部の新しい地域(北京や雲南など)でも流行がおきていますが、ほとんどが鳥からの感染によるもので、ヒトからヒトへの感染は現時点ではみられていません。

3) アジアのデング熱流行状況

東南アジア各地でデング熱の流行がみられています。患者数は例年と同程度か、やや多い状況です(WHO西太平洋 2017-7-17)。南アジアのスリランカでは、今年になりデング熱患者が急増しており、7月初旬までに患者数が8万人に達しました(WHO 2017-7-19)。これは例年の4倍以上の数で、患者の発生は首都コロンボなどで多くなっています。ウイルスの種類としては2型が多く検出されており、これは従来流行していたタイプと異なります。スリランカに滞在する際には蚊に刺されない対策をとるとともに、発熱がおきた場合は早目に医療機関を受診しましょう。

4)マレーシアで狂犬病患者発生

マレーシアは狂犬病の発生がほとんどない国とされていましたが、今年になりサワラク州(ボルネオ島)のSerianで4人の患者が発生しました(ProMED 2017-7-9)。同国でイヌなどの動物に咬まれた場合は、ただちに狂犬病の発病を予防するためのワクチン接種を受けてください。また、長期滞在者は事前のワクチン接種を検討してください。

5)ケニアのナイロビでコレラ患者が発生

ケニアの首都ナイロビのホテルで、6月下旬に開催された会議の参加者146人がコレラを発症しました(WHO 2017-7-21)。また、7月中旬にナイロビ市内で行われた物産展の参加者136人もコレラを発症しています(WHO 2017-7-21)。ケニアでは今年になりナイロビとその周辺で1200以上のコレラ患者が発生しており、このうち14人が死亡しています。ナイロビには日本からの旅行者が夏休みシーズンに増加しますが、滞在中は飲食物に十分注意しましょう。

6)西ヨーロッパでの麻疹の流行

西ヨーロッパ諸国での麻疹の流行は7月も続いています。イタリアでは7月中旬までに患者数が3500人以上にのぼっており、その多くが20~30歳代の患者です(WHOヨーロッパ 2017-7-11)。ドイツでは7月初旬までに780人の麻疹患者が報告されており、これは昨年の5倍以上の数になります。フランスでも約300人の麻疹患者が報告されています(ヨーロッパCDC 2017-6-22, 7-14).。なお、米国CDCはフランスへの渡航者で麻疹ワクチンの接種が不完全な者に、追加接種を受けるように勧告しています(米国CDC 2017-7-7)。
日本では20歳代後半~30歳代の世代で麻疹の免疫力が低く、この世代の人が麻疹の多発国に滞在する際には、事前にワクチン接種を受けることを推奨します。

7)中南米でのデング熱、チクングニア熱の流行

中南米各地で蚊が媒介するデング熱、チクングニア熱の流行が報告されています。米州保健機関の報告では、今年になり中南米でデング熱の患者は30万人発生しています(米州保健機関 2017-7-7)。また、チクングニア熱の患者は6万人で、このうちの半数以上はブラジルで発生しています(米州保健機関 2017-6-30)。チクングニア熱は発熱とともに強い関節痛をおこすことが知られています。なお、同じく蚊に媒介されるジカウイルス感染症の患者数は、ブラジルでは2017年になり大幅に減少している模様です(米州保健機関 2017-6-29)。

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2017年6月12日~2017年7 月9日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。
出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2017.html

1)経口感染症:輸入例としてはコレラ2例、細菌性赤痢3例、腸管出血性大腸菌感染症4例、腸・パラチフス7例、アメーバ赤痢6例、ジアルジア4例、A型肝炎2例、E型肝炎1例が報告されています。今月は腸・パラチフスが増加傾向にあり、インドネシアでの感染が2例でした。従来から南アジアでの感染が多い病気ですが、インドネシアに滞在する際もワクチン接種を検討する必要があります。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が15例で、前月(14例)と変化ありませんでした。感染国はスリランカ4例と多くなっています。なお、今年のデング熱の累積患者数は94例で、昨年同期(163例)に比べて半数近くに減少しています。チクングニア熱は1例で、バングラデッシュでの感染でした。マラリアは7例で、アフリカでの感染が4例、アジアでの感染が3例(インドネシア、UAE、韓国)でした。韓国では北朝鮮国境付近で三日熱マラリアが流行することがあり、夏に滞在する際は蚊に刺されないようにご注意ください。

3)その他の感染症:麻疹の輸入例が1例報告されており、現在流行が拡大しているイタリアでの感染でした。

・今月の海外医療トピックス

B型肝炎ワクチン~ノンレスポンダーへの対応
2017年7月27日は、WHOが定めるWorld Hepatitis Dayです。今年のテーマは"Eliminate Hepatitis(肝炎を根絶しよう)"です。B型肝炎ワクチンは日本国内では2016年10月より定期接種化され、将来の根絶に向けその成果が期待されています。
B型肝炎ワクチンは、3回の接種を受けても抗体が陽性化しないノンレススポンダーが存在することが知られています。CDCのPink Bookには40歳以上の男性で、肥満、喫煙者、慢性疾患を有する者がそのリスクが高くなると記載されています。そのような場合、0-1-6か月のスケジュールで再度3回筋注し、その後1-2か月後に抗体検査を行うことが推奨されています。それでも抗体が陽性化しない者で、B型肝炎ウイルスの曝露(針刺しなど)があれば、B型肝炎の免疫グロブリン製剤の投与などが必要となります。兼任講師 古賀才博
https://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/hepb.html (CDC Pink Book)

・渡航者医療センターからのお知らせ

1)トラベラーズワクチンフォーラム研修会(バイオメディカルサイエンス研究会主催)

第32回研修会が下記の日程で開催されます。今回は「海外渡航者と麻疹」、「髄膜炎菌ワクチン」などがテーマです。
・日時:2017年9月2日(土)午後1時半~午後5時半 ・会場:日本教育会館(東京・神保町) 
・プログラムや申し込み方法はバイオメディカルサイエンス研究会のホームページをご覧ください。
https://www.npo-bmsa.org/研修会-セミナー情報/トラベラーズワクチンフォーラム/