海外医療通信2019年2月号
東京医科大学病院 渡航者医療センター
・海外感染症流行情報 2019年2月号
(1)全世界: 世界各地の麻疹流行状況
フィリピンでは今年に入り首都マニラやその近郊で麻疹の患者が増加しています。フィリピン保健省の発表では、2月中旬までに患者数は8000人以上にのぼっており、これは昨年同期の4倍の数になります(Outbreak News Today 2019-2-18)。同国では昨年、デング熱ワクチンの副作用が問題になりましたが、その影響で麻疹などのワクチン接種率が低下しており、流行の一因と考えられています。
ヨーロッパでは2018年に8万人の麻疹患者が発生し、2017年の3倍の数になりました(ヨーロッパCDC 2019-2-8)。とくにウクライナでの患者発生が多く、同国での流行は2019年に入っても続いています。EU加盟国の中では、フランス、イタリア、ギリシャで患者数が多く、2018年は2000人以上になりました。
(2)アジア: 東南アジアでの蚊媒介感染症の流行状況
ベトナムのホーチミンで1月にデング熱の患者が6000人以上発生しました(Outbreak News Today 2019-2-19)。これは昨年同期の3倍近い数になります。インドネシアでもジャワ島などを中心に1月は全土で15000人以上のデング熱患者が発生しました(ProMED 2019-2-16)。
タイ南部では昨年末からチクングニア熱の流行が発生しています。今年1月だけで患者数は1000人以上にのぼっており、観光地のプーケットでも患者が発生している模様です(英国Fit For Travel 2019-2-4)。マレーシアの首都クアラルンプル近郊でも1月に約40人のチクングニア熱の患者が発生しました。チクングニア熱は発熱とともに強い関節痛をおこします。デング熱と同様に昼間吸血するネッタイシマカが媒介するため、流行地域では昼間の蚊の対策を心がけてください。
(3)アフリカ: コンゴ民主共和国でのエボラ熱流行状況
コンゴ民主共和国北東部で発生しているエボラ熱の流行は2月も続いています。昨年8月以来、2月中旬までの累積患者数は823人で、うち517人が死亡しました(WHO Disease outbreak news 2019-2-14)。患者発生のペースは1か月で約100人と大きな変化はみられていません。医療従事者の感染は68人で、2014年に西アフリカで発生した流行に比べ少なくなっています。
(4)北米:米国西部でコクシジオイデス症の患者が増加
2018年に米国のカリフォルニア州でコクシジオイデス症の患者が8100人発生しました(ProMED 2019-2-16)。2016年の患者数は5700人で増加傾向にあります。患者の発生はロサンゼルス近郊のKern Countyで最も多くみられています。コクシジオイデス症は真菌による感染症で、米国南西部やメキシコなどの乾燥地帯で発生します。土の中に棲息する菌が風で浮遊し、それを吸い込むと感染がおこります。感染者の6割は無症状ですが、発病すると肺炎や全身症状をおこし、死亡するケースもあります。日本でも輸入例が毎年報告されており、2019年2月にも米国からの帰国者で1例報告されました(国立感染症研究所・感染症発生動向調査 2019年第5週)。流行地域では風の強い日に砂漠に立ち入らないなどの注意が必要です。
(5)南米: ブラジルで黄熱の流行が再燃
ブラジルでは毎年12月~5月に黄熱の流行が拡大します。今期も2018年12月~2019年1月に361人の患者が発生し8人が死亡しました(WHO Disease outbreak news 2019-2-11)。患者の発生は南部のサンパウロ州などで多く、パラナ州でも2015年以来の患者が確認されました。3月上旬にはブラジル全土でカーニバルが開催されるため多くの観光客が訪問しますが、事前に黄熱ワクチンの接種を受けておくことを推奨します。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2019年1月1日~2019年2月10日)
最近約1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html
(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢3例、腸管出血性大腸菌感染症4例、腸チフス・パラチフス6例、アメーバ赤痢6例、A型肝炎4例、E型肝炎2例が報告されています。腸チフスはインドネシアでの感染が3例と多くなっています。
(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は28例で、マレーシア(7例)とインドネシア(5例)での感染が多くなっています。マラリアは3例で、アフリカ(ウガンダ、ガーナ、トーゴ)での感染でした。
(3)その他:麻疹が19例と前月(2例)に比べて大幅に増加しています。感染国はフィリピンが10例と多く、同国で発生している流行(海外感染症流行情報を参照)の影響と考えられます。風疹は4例で、こちらもフィリピンでの感染が2例と多くなっています。
・今月の海外医療トピックス
日本での麻疹流行
今年は国内で麻疹患者が増加しており、2月中旬までに患者数は167人になりました。これは2016年や2017年の年間患者数に匹敵します。とくに2月に入り、大阪で患者数が急増中です。日本では根絶されたはずの麻疹ですが、海外から持ち込まれるケースを起点に流行が拡大しているようです。
麻疹は世界規模で問題となっており、WHOは2月14日、2018年の全世界の麻疹患者数が前年と比較して50%も増えていると警告を発しました。麻疹は空気感染で人から人に伝播します。その感染力は非常に強く、発症者が1人いると、12人以上に感染が広がるとされています。過去に罹ったことのない人は、ワクチンで予防するより他はありません。我が国でも、1990年以前に生まれた人の多くは麻疹ワクチンの接種回数が少ないため、罹患していなければ追加接種を推奨しています。麻疹は時に脳炎や肺炎を合併し、死に至らしめる病気であることから、積極的に予防してください。(医師 栗田直) 参考:https://news.un.org/en/story/2019/02/1032771
・渡航者医療センターからのお知らせ
トラベラーズワクチンフォーラム研修会(バイオメデイカルサイエンス研究会主催)
今回の研修会は下記の日程で開催されます。「世界のトラベラーズワクチンの状況」や「各地域別の接種推奨リスト」に関する講演があります。
・日時:2019年3月9日(土)午後1時20分~午後5時 ・会場:国立国際医療研究センター
・プログラムなど:バイオメデイカルサイエンス研究会のホームページをご覧ください。https://www.npo-bmsa.org/研修会-セミナー情報/トラベラーズワクチンフォーラム/