海外医療通信 2018年6月号
東京医科大学病院 渡航者医療センター
・海外感染症流行情報2018年6月
1)サウジアラビアでの最近のMERS流行
サウジアラビアでは2012年以来、中東呼吸器症候群(MERS)が流行しています。今年も5月末までに75人の患者が発生し、23人が死亡しました(WHO 2018-6-18)。集団感染も、病院内で2回、家族内で2回おきています。5月には南部のNajran地域で、8人の家族内が集団感染がおこりました。近年、サウジアラビアではMERSの病院内での集団感染は少なくなりましたが、家族内感染が続いており、いずれも最初の患者はラクダとの接触が感染原因となっています。日本からサウジアラビに仕事などで渡航する人も増えていますが、滞在中はラクダに接触しないよう十分に注意ください。
2)インド・ケララ州でのニパウイルス感染症
インド南部のケララ州で、5月からニパウイルス感染症の流行が発生しています。WHOの報告によれば、5月中旬から5月末までに約30人の患者(疑いを含む)が発生し、13人が死亡しました((WHO 2018-5-31)。6月に入ってからは新しい患者発生はない模様です(ProMED 2018-6-11)。ニパウイルスは大型のコウモリが保有するウイルスで、ヒトが感染すると重症の脳炎をおこします。コウモリとの接触やコウモリが触れた果物(マンゴなど)を食べて感染します。今までにマレーシア、インド、バングラデッシュで流行が確認されており、流行地域ではコウモリに接触しないことや、果物を食べる時は表面をよく洗う注意が必要です。
3)パプア・ニューギニアでポリオ患者が発生
パプア・ニューギニアで5月にポリオ患者が1名発生しました(Polio Global Eradication Initiaitive 2018-6-22)。患者からは1型のポリオウイルスが検出されています。最近、ポリオの患者数は少なくなっていますが、今年はアフガニスタンとパキスタンでも患者が確認されいます。患者が発生している国に滞在する際には、ポリオワクチンの接種を受けておくことを推奨します。
4)東南アジアでのデング熱流行状況
東南アジアの多くの国は雨季を迎えており、デング熱の流行時期に入っています。今年はカンボジアで例年より患者数が増えていますが、マレーシア、シンガポール、ベトナム、フィリピンでは例年よりも少なくなっています(WHO西太平洋 2018-6-7)。これから本格的な雨季になるため、東南アジアに滞在する際は蚊に刺されない対策をとるようにしましょう。
5)ロシアでのワールドカップ大会参加者にMMRワクチン接種を推奨
米州保健機関(PAHO)はロシアで開催中のサッカー・ワールドカップ大会の参加者に、麻疹・オタフクカゼ・風疹ワクチン(MMRワクチン)の接種を推奨しています(米州保健機関 2018-5-29)。今年はフランスやイタリアで麻疹の患者数が増加しており(ヨーロッパCDC 2018-6-8)、こうした国で感染した患者が会場で流行を増幅する可能性があります。
6)コンゴ民主共和国でのエボラ熱流行は鎮静化
4月初旬からコンゴ民主共和国の赤道州で発生してたエボラ熱の流行は、6月になり鎮静化しています(WHO 2018-6-20)。累積患者数は6月中旬までに疑い例も含め60人(うち27人が死亡)ですが、新しい患者は6月2日以来、報告されていません。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2018年5月7日~2018年6月10日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。
出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html
なお、国立感染症研究所ホームページでは輸入感染症の動向に関する新たなページを作成しています。こちらもご参照ください。https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/1709-source/transport/idsc/8045-imported-cases.html
1)経口感染症:
輸入例としては細菌性赤痢21例、腸管出血性大腸菌感染症16例、腸チフス・パラチフス5例、アメーバ赤痢4例、A型肝炎13例、E型肝炎3例、ジアルジア症1例が報告されています。赤痢は前月(3例)より大幅に患者数が増加しており、ペルー(8例)とインドネシア(7例)での感染例が多数報告されました。腸管出血性大腸菌感染症も前月(5例)より多く、韓国(7例)からの輸入例が増加しています。日本の飲食店では本症の原因となる生レバー肉の提供が制限されていますが、海外では提供している店もあり、十分な注意が必要です。
2)蚊が媒介する感染症:
デング熱は16例で、タイ(6例)やインドネシア(5例)での感染例が多くなっています。マラリアは5例で、感染国はアフリカが3例、アフガニスタン1例、パプア・ニューギニア1例でした。チクングニア熱はタイでの感染例が1例報告されています。
3)その他:麻疹が2例(フィリピンとシンガポール)、風疹が2例(フィリピンとインドネシア)が報告されています。百日咳も2例報告されており、フィリピンと中国での感染でした。
・今月の海外医療トピックス
ロシアを旅行する際の感染症対策
ロシアでサッカー・ワールドカップが開幕しました。各地で熱戦が繰り広げられており、日本からも多くの観客が参加しています。今回の大会でロシアを身近に感じた人が、今後、旅行に訪れる機会も増えることでしょう。こうしたロシアへの旅行者が注意する感染症としては、経口感染する旅行者下痢症やA型肝炎が第一にあげられます。料理は加熱したものを食べ、水はミネラルウオーターを飲むなどの注意をしてください。A型肝炎にはワクチンがあるので、出国前に接種しておくことをお勧めします。ロシアに特有の風土病としてはダニ媒介脳炎があります。マダニに刺されて感染し脳炎を起こすもので、患者の3割近くが死亡します。ロシアでは春から夏にかけて流行がみられますが、郊外の野山だけでなく、町中の公園などでも感染リスクがあります。このような場所ではマダニに刺されないように、皮膚の露出を少なくするとともに、昆虫忌避剤(虫よけ剤)を塗っておくことをお勧めします。(教授 濱田篤郎)
なお、今回のワールドカップに参加する際の健康上の注意は下記のサイトをご参照ください。https://news.yahoo.co.jp/pickup/6287338
・渡航者医療センターからのお知らせ
(1)第20回渡航医学実用セミナー(当センター主催)
当センターでは、渡航医学に関連するテーマのセミナーを定期的に開催しています。今回は「海外出張者の健康管理」をテーマに、下記の日程で開催します。
・日時:2018年6月28日(木) 午後2時00分 ~ 午後4時30分
・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂
・対象:職種は問いません
・参加費:無料
・定員:約100名
・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします。
・プログラム(詳細は当センターHPをご参照ください) http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html
(2)髄膜炎菌ワクチンの研究対象者(56歳以上)を募集
渡航者医療センターでは、「56歳以上の方を対象とした髄膜炎菌ワクチン」の研究を実施しています。髄膜炎菌はアフリカをはじめ欧米諸国でも流行することがあり、髄膜炎や菌血症など致死率の高い疾患をおこします。我が国では2014年に髄膜炎菌ワクチンが承認されましたが、56歳以上の成人の方に関するデータが少ないため、56歳以上の健康成人の方を対象として、髄膜炎菌ワクチンを1回接種する研究を行っています。接種前後の血清抗体価と、接種後の健康状態を聴取させていただいています。ご興味のある方は、travel@tokyo-med.ac.jp(担当:福島)まで、ご連絡ください。
(3)ジャムズネット東京講演会(ジャムズネット東京主催)
ジャムズネット東京の第7回講演会が下記の日程で開催されます。今回は「医療アクセスの壁を越え、国の境界を越える未来の医療」をテーマに、身体的にハンディーキャップのある人の海外渡航などに関する講演を行います
・日時:2017年7月29日(日)午後2時~午後4時半 ・会場:東京大学先端技術科学センター
・プログラムなどはジャムズネット東京のホームページをご覧ください。http://jamsnettokyo.org/