海外医療通信 2018年12月号  

東京医科大学病院 渡航者医療センター

海外感染症流行情報 2018年12月号

(1)インドのジカウイルス感染症

インド北部のRajasthan州・ジャイプールでジカウイルス感染症の患者が発生しています。10月末までに患者数は140人以上にのぼっており、周辺のGujarat州やMadhya Pradesh州でも患者が確認されました(Journal of Travel Medicine 2018-11-22)。ジャイプールは交通の拠点であり、今後、ジカウイルス感染症の流行がインド全域に拡大する可能性があります(米国CDC 2018-12-13)。ジャイプールには日本からの観光客も数多く滞在しており、現地では媒介する蚊に刺されない対策など十分な注意が必要です。

(2)マレーシア・サワラク州の狂犬病

マレーシアのサワラク州では2017年7月から今年12月までに13人の狂犬病患者が発生しました(英国Fit For Travel 2018-12-7)。最近では同州のクチンで21歳の男性が狂犬病で死亡しています。マレーシアは狂犬病の患者発生が少ない国とされていますが、サワラク州のあるボルネオ島では注意が必要です。

(3)アジアの蚊媒介感染症(デング熱、チクングニア熱)

今年はアジア各国で例年以上のデング熱患者が発生しました。11月までにタイで8万人、フィリピンで18万人、カンボジアで1万5000人の患者が確認されています(Outbreak News Today 2018-12-5,12, 14)。また、タイ南部のプーケットなどでは11月からチクングニア熱の患者も増加している模様です(Outbreak News Today 2018-12-12)。

(4)コンゴ民主共和国のエボラ熱

コンゴ民主共和国の北東部で発生しているエボラ熱の流行は12月も続いています。12月18日までの累積患者数は549人(疑いを含む)で、毎週約30人の患者が発生する状況です(WHO Disease outbreak news 2018-12-20)。今まで患者発生の多かったBeni地域では流行が鎮静化していいますが、その周辺地域で患者発生が増えている模様です。また、今回の流行では女性や小児の患者が従来の流行よりも多く発生しています((WHO Disease outbreak news 2018-12-6)

(5)ヨーロッパの麻疹

今年は西欧で麻疹の患者数が増加しています。10月はフランスで68人、イタリアで75人の患者が発生しました(ECDC 2018-12-14)。2017年10月から今年10月までの累積患者数は、ギリシャ、フランス、イタリアでそれぞれ2000人以上になっています。また、東欧のウクライナでも麻疹の流行が発生しており、患者数は4万人以上にのぼっています(ProMED 2018-12-20)。

(6)北半球の季節性インフルエンザ

北半球の温帯地域では12月に入り季節性インフルエンザの患者数が増加傾向にあります(WHO-Influenza 2018-12-10)。ウイルスの種類はA(H1N1)型が多く検出されています。米国もインフルエンザの流行期に入り、A(H1N1)型の検出が多くみられます(米国CDC 2018-12-21)。カナダではカルガリーで患者数が急増している模様です(ProMED 2018-12-4)。

 

日本国内での輸入感染症の発生状況(2018年11月5日~2018年12月9日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢17例、腸管出血性大腸菌感染症1例、腸チフス・パラチフス4例、アメーバ赤痢3例、A型肝炎4例、ジアルジア1例、クリプトスポリジウム1例が報告されています。細菌性赤痢は前月(6例)より大幅に増加しています。米国(ハワイ)での感染が11例と多く、現地で集団感染がおきた可能性があります。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は20例で、前月(15例)よりやや増加しました。感染国は前月と同様にフィリピンが4例と最も多くなっています。なお今年の累積患者数は191例で、昨年同期の239例に比べて減少しています、マラリアは1例で、いずれもナイジェリアでの感染でした。

(3)その他:麻疹が2例(感染国:タイ、ベトナム)、風疹が2例(感染国:韓国、インド)報告されています。百日咳は1例報告されており、米国での感染例でした。

 

今月の海外医療トピックス

スペイン・インフルエンザから100年

2018年はスペイン・インフルエンザの流行から100年になります。全世界の患者数は6億人、死亡者は4000万人で、わが国でも患者数2300万人、死亡者数38万人が発生しました。1918年11月と1919年1月に死亡者数のピークがあり、死亡者の年齢層は男女とも20代の若者が最も多かったそうです。

例年冬に発生する季節性インフルエンザの流行は、ヒトがそのウイルスに対してある程度の抵抗力を持っているため、大流行には至りません。しかし、ウイルスが変異し新型インフルエンザとして大流行することで、多くの命を奪います。100年前、わが国は大正時代で米騒動がおきていました。海外と日本を行き来していたのは、第一次世界大戦に出征した軍人や留学生くらいでした。しかし、人間の移動手段はこの100年で大きく変貌し、現代は巨大旅客機などで多くの人が世界中を移動しています。それに伴って、スペイン・インフルエンザのように、多くの命を脅かすウイルスが再び出現する可能性も増しています。災害と同じく、こういった感染症に対する平時の危機管理の重要性を感じずにはいられません。(医師 栗田 直)

〈参考〉https://www.cdc.gov/flu/pandemic-resources/1918-commemoration/index.html

 

渡航者医療センターからのお知らせ

第22回渡航医学実用セミナー(当センター共催)

当センターでは渡航医学に関連するテーマのセミナーを定期的に開催しています。今回は「外国人労働者の健康問題」などをテーマに下記の日程で開催します。是非ご参加ください。

・日時:2019年2月21日(木) 午後2時00分~ 午後4時30分

・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂

・対象:職種は問いません(どなたでも参加できます) ・参加費:無料 ・定員:約200名

・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします

・プログラム

  「持病のある人の海外渡航」 海外医療支援協会理事長 高林克日巳先生(三和病院)

  「昆虫忌避剤の知識」 アース製薬株式会社 前田かほる様

  「外国人労働者の感染症対策」 東京医科大学渡航者医療センター 濱田篤郎

  「在日外国人のメンタルヘルス対策」 東京医科大学渡航者医療センター 松永優子

詳細は当センターHPを参照くださいhttp://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html